1年前、私たちはContent Independence Day(コンテンツ独立記念日)を宣言しました。当時、業界関係者の多くが感じ始めていたことを私たちも察知していました。インターネットの基本的経済原理が変わりつつあるということをです。AI導入が加速して、パブリッシャーではリファラルトラフィックが急減していました。AI企業はそれまでにない規模でWebをクロールしていましたが、その意図を明確に表明にすることは少なく、たいていは対価も支払っていませんでした。
私たちはデフォルトを変更しました。Cloudflare上のすべての新規ドメインにおいて、ドメイン所有者が許可を選択しない限り、AI学習クローラーをデフォルトでブロックするようにしたのです。これは、Webから隔離するためではありません。より健全なエコシステムにするには透明性、制御、希少性が必要であり、最終的には高品質なコンテンツが正当に評価され、公正に取引される市場が必要だと考えたからです。
1年後、その市場が出現しました。しかし、インターネットの変革は私たちの予想を上回る速さで進んでいます。このレポートでは、インターネットのビジネスモデルがいかに速く変化したかを示す主要なデータポイントを共有し、新しいコンテンツ市場がパブリッシャーやサイトオーナーにとって何を意味するのかを説明します。
AIは単なる技術サイクルではありません。スマートフォン普及の2倍以上の速度で進行しているプラットフォームシフトです。わずか3年半で人類の30%以上、つまり25億人のアクティブユーザーが生成AIを常用するようになりました。普及曲線は急勾配どころか垂直化しつつあります。
人間の情報との関わり合い方、仕事のしかた、オンラインでの時間の過ごし方がこれほど急激に変化したのは、見たことがありません。
インターネットの使い方は劇的に変化しています。現在、オンライン検索に費やされる時間1時間あたり、オープンWebで費やされる時間はわずか15分です。ユーザーがAI駆動の発見と消費へ移行するにつれ、従来の検索行動は崩壊しつつあります。複数のサイトを訪問して情報を収集し比較する代わりに、プロンプトを入力するだけで、ほぼ瞬時に統合された回答を受け取れるようになっているのです。
今年、エージェントトラフィックが初めて歴史的閾値を超えました。インターネット上のトラフィックの50%以上がノンヒューマン(非人間)になったのです。この変化は、パブリッシャー、コンテンツオーナー、そしてオープンWebの未来に驚異的な影響を及ぼします。
Cloudflareが目的別に特定するクローラーを見ると、クローラートラフィックの構成がその変化を明確に物語っています。
2026年6月現在、クローラーリクエストの52%がAI学習用で、2025年春の22%から増えています。
検索、エージェント利用、学習を兼ねた用途複合型クローラーは、アクティビティの36%以上を占めています。
純粋な検索用クローラーは、パブリッシャーの視認性確保に依然重要であるにもかかわらず、クローラーアクティビティ全体に占める割合は小さく、低下傾向にあります。
AI学習がクローラーアクティビティの主目的になる中、発見と学習を区別する能力がますます重要になっています。用途複合型クローラーはその区別を曖昧にし、コンテンツオーナーは困難な立場に置かれています。エージェンティック時代において発見可能性を維持するか、最も価値あるコンテンツの無償提供を回避するかの選択を迫られているのです。
数十年間、オープンWebの経済モデルは単純明快でした。コンテンツクリエーターは、コンテンツへのアクセスと引き換えに、検索エンジンでの視認性を確保し、リファラルトラフィックを獲得しました。そのトラフィックが、パブリッシャー、クリエイター、ビジネスが経済的価値を生み出すための主要メカニズムになっていたのです。
しかし、今はその引き換えの関係性が崩壊しつつあります。コンテンツは引き続きクローリングされ、インデックス化され、利用されていますが、それに見合うトラフィックがコンテンツソースに流入することは少なくなっています。AIシステムが質問に答え、製品を比較し、調査を行い、タスクを直接完了する現在、オープンWeb上の情報はAI学習・検索システムの一部になりつつあります。この問題が提起する実存的な問いは単純です。コンテンツが消費されてもオーディエンスがソースを訪問しないなら、コンテンツクリエーターはどのようにして生計を立てればいいのでしょうか。
影響を最初に受けたのは報道機関とメディア企業でした。今日、小売、ソフトウェア、IT、金融業界にも同様のダイナミクスが働いています。最も頻繁にクロールされるカテゴリーの中には、人間のトラフィックが1年足らずで40%減少したものもあります。
多くのパブリッシャーは現在、彼らが「Google Zero」と呼ぶ事態に備えて対策しています。Google Zeroは、検索エンジンからのリファラルトラフィックがほぼない世界です。
その影響は実質的にすべての業界に及びます。インターネットに独自情報を公開する組織はみな、エージェンティックAI時代の事業運営の方法を理解する必要があります。このダイナミクスは、コンテンツオーナーだけでなく私たち全員に影響します。インターネットはグローバル経済の重要部分であり、情報を表面化するための世界で最も重要な公共資源の一つです。その健全性と持続可能性の確保は、すべての人にとって不可欠です。
Content Independence Day(コンテンツ独立記念日)の開始にあたり、私たちは3つのことを約束しました:
サイトオーナーに透明性と制御を提供し、コンテンツへのアクセスと収益化の方法を自ら決定できるようにします。
希少性を生み出すツールを提供し、コンテンツオーナーが主導権を取り戻せるようにします。
あらゆる規模のコンテンツクリエーターとAI企業が、コンテンツの発見、ライセンス契約、価値決定をより効率的に行える市場を創出します。
1年後、コンテンツ収益化市場が実現し、ダイナミックな市場環境が整いつつあります。
従来、パブリッシャーは、自分のコンテンツにAI企業がどうアクセスし、どう利用しているかを限定的にしか可視化できませんでした。リファラルトラフィックが減少するにつれ、その可視性の欠如は経済問題となり、パブリッシャーは新たな価値獲得方法を模索することになりました。
Cloudflareのアトリビューションツール、ビジネスインテリジェンスツール、およびエンフォースメントツールは、AIによる消費についてネットワークレベルの可視性をパブリッシャーに提供しました。これはrobots.txtのような自主標準よりもはるかに効果的なエンフォースメントメカニズムです。パブリッシャーはようやく、コンテンツへのアクセスと収益化のしかたを自分で決定できるようになりました。こうして制御が可能になったことで希少性が生まれ、需要と供給に基づくコンテンツ経済を発展させたのです。
アクセス制御を実行したパブリッシャーは希少性を高めることに成功し、交渉でのレバレッジを得て、有利な条件を引き出せるようになりました。パブリッシャーは、オペレーターレベルのアトリビューションデータを初めて入手しました。LLMがどの程度の頻度でコンテンツへのアクセスを試みたか、どの競合LLMがクロールしていたか、最も需要の多いURLは何だったか、クロール数とリファラル数の比率はどうだったかのエビデンスを確保したのです。これにより、ライセンス交渉における情報の非対称性が緩和され、パブリッシャーは知識を武器に交渉できるようになりました。
このレバレッジがお客様の力となっています。AIシステムがコンテンツにどうアクセスし、どう利用しているかについて可視性が高まったことで、ビジネスへの影響をより良く理解し、自分たちが構築した情報、ブランド、オーディエンスの価値を自信を持って明確に伝えることができるようになりました。
コンテンツオーナーとAI企業の力のバランスが変化し始め、ライセンス経済が出現しています。
2023年以来、パブリッシャーとAI企業の契約が50件以上締結されています。
主要なAI企業は、差別化されたプレミアムコンテンツの価値を認めるようになり、コンテンツライセンス契約を積極的に結んでいます。
コレクティブライセンス(集中許諾)モデルが次々に出現し、拡大を続けています。
大手パブリッシャーは有意義なライセンス契約を確保しており、AIエコシステムにおいてコンテンツが実際の経済的価値を持つことを示しています。
今や、コンテンツに対価を支払うべきか否かという議論はもうありません。現在の議論はどう支払うかです。
初期のライセンス契約により需要の存在は実証されたものの、現在のライセンス契約は依然カスタムライセンス契約が主で、失われたリファラルや広告収入、アフィリエイト収入を完全に補うことは難しいでしょう。そこで、パブリッシャーは、従来の人間による発見とAIによる消費の両方に適応すべく最適化を進め、同時に新しい収益化の道も模索しています。
需給の効率的なマッチングは依然困難で、すべてのコンテンツが同じ価値を持つわけではないことは理解されていますが、コンテンツの価値評価はまだ未解決の課題です。
この市場を語るには、Googleの特異な役割に触れないわけにはいきません。Googleはオンライン発見の支配的ゲートウェイとして君臨し続け、リファラルトラフィックの約88%を占めています。しかし、GoogleのユーザーはGoogle所有のAIサービス内でコンテンツを直接消費し、それで完結してしまう傾向が強まっています。
発見と消費は根本的に目的が異なります。検索はユーザーをコンテンツへ誘導しますが、AI駆動サービスは要約・再利用するものが増え、ユーザーはソースを訪れずじまいになることが多いのです。前者がトラフィックを生み出すのに対して、後者はソースに取って代わる傾向にあるため、Webサイトオーナーはこれらのアクティビティを別物と認識しています。
この相違は、誰がどのような目的でコンテンツにアクセスすることを許すかをサイトオーナーが決める際に特に重要になります。主要AI企業の多くは検索クローラーと学習クローラーを分けており、パブリッシャーが目的によってコンテンツアクセスを許可することは比較的容易です。Googleは分けずに用途複合型ボットを使っているため、GoogleのAIエコシステムに参加せずにGoogleの検索エコシステムに参加することは難しく、その結果、現在同社は主要AI企業の約2倍の情報にアクセスできています。
他のAIプロバイダーとは異なり、Googleの用途複合型クローラーはサイトオーナーにとっての透明性も限定的です。発見とAIアクセスを1つのクローラーが兼ねているため、パブリッシャーはGoogleがコンテンツにアクセスする理由がわからず、検索用のトラフィックとAIサービス用のトラフィックを区別できません。それらのアクティビティをネットワークレベルで個別に許可またはブロックできないため、可視性もエビデンスも得られません。
こうした力関係の不均衡を背景として、透明性の向上と制御能力の強化、コンテンツオーナーとあらゆる規模のAI企業を同時に利する新たな収益化モデルを求める声が高まっています。
Cloudflareは、新たなエージェント経済の交差点に位置しています。
Webの20%以上がCloudflareのネットワークを経由しています。世界の訪問数上位Webサイトの36%、フォーチュン500企業の40%以上がCloudflareのお客様ですし、主要AI企業のほぼ80%と数千人の開発者や新興AI企業にもご利用いただいています。
このようなユニークな立ち位置にあるため、市場の両側の可視性を得ることができます。コンテンツオーナーがコンテンツを作成し、AI企業がそれを消費し、両者間のシグナルが増えているのが見えるのです。この視点から、過去1年間で市場がどう進化したか、そして現在何が求められているかを把握できました。
パブリッシャーとAI企業が新興のエージェント経済に適応する中、Cloudflareはエコシステムが今必要とするものを明確に理解しました。
コンテンツオーナーは、自分のコンテンツに誰がアクセスし、どのように利用され、何の目的で利用されているかを把握し、制御する必要性がますます高まっています。AI企業の間で、透明性が信頼を築き、パブリッシャーとの摩擦を減らすという認識が強まっています。可視性と制御の適用はもはやセキュリティだけの問題ではなく、ライセンス交渉や商業的意思決定に直接影響を与えるビジネス要件になっています。
透明性を標準とするため、Cloudflareは、コンテンツオーナーがコンテンツのアクセスや利用の可視性を高め、制御を強化できるようにする拡張アトリビューション、効果測定、パブリッシャーコントロールに引き続き投資していきます。
業界が透明性を高める方向にありますが、私たちは、ボットが自己申告するアイデンティティを検証可能にすることと、クロールの意図を宣言させることが、持続可能なエコシステムを育むための基本要件だ考えています。現在はまだ、Cloudflareネットワーク上のクローラーアクティビティの3分の1以上が、コンテンツオーナーがクロールの意図を見分けられない用途複合型ボットからのものです。私たちはエコシステムに積極的に関与し、ツールの開発に投資して、来年の今頃までにその数をゼロにすることを目指しています。
過去1年で、AI企業に必要なのはコンテンツへのアクセスだけではないことが明らかになりました。何に、いつアクセスするか、そのコンテンツはどのくらいの頻度で更新されるかを見極めるためのより良い方法が必要です。無差別なクローリングはAI企業の計算リソースを浪費し、パブリッシャーにとっても帯域幅への不必要な負荷となり、エコシステム全体の効率を低下させます。
優れた回答を生成するには、優れたインテリジェンスが必要です。私たちは、AI企業が差別化された情報を発見するのに役立つと同時にWeb全体で無駄なクロールを減らす、信頼性、品質、妥当性豊かなリアルタイムの鮮度シグナルの開発に投資しています。
価格設定を改善する前に、まず発見を改善しなくてはなりません。市場が成熟するためには、パブリッシャーとAI企業が互いについてより良い情報を持つ必要があります。私たちは、より豊かな市場インテリジェンスとコンテンツシグナリング、エコシステムの両側で発見を改善する各種機能に投資し、将来的に拡張しやすい市場メカニズムの基盤を築いています。
第5部:エージェンティックインターネットのためのインフラストラクチャ構築
1年前のContent Independence Dayで、シンプルなアイデアを提示しました。AI企業がコンテンツにどうアクセスし、それをどう利用するかについて、コンテンツオーナーがより大きなコントロールを持つべきだという考えです。
過去12か月にわたり、そのコントロール強化が市場の誕生を促しました。透明性が希少性を生み、希少性がレバレッジを生み、レバレッジがライセンス契約の締結を加速しました。かつてはAIとコンテンツの未来に関する理論的議論にすぎなかったものが、パブリッシャー、AI企業、テクノロジープロバイダーが新たな経済的現実に適応することで、活発な市場となりました。
現在、市場は新たなフェーズに入り、新しいインフラストラクチャが必要になっています。エージェンティックインターネットへの進化が進む中、インターネットを支える基盤システムも、許可、ライセンス契約、商取引を大規模に処理できるよう進化する必要があります。コンテンツオーナーとAI企業は、より効率的な接続と価値交換の方法を必要としています。それらの機能が、プログラム可能で拡張可能なコンテンツ発見・収益化メカニズムへと収束していき、摩擦を減らしながら、より豊かな価値交換を可能にすると、私たちは信じています。
Cloudflareの役割は、インフラストラクチャとビジネスインテリジェンスを構築し、市場がより効率的に価値決定できるようにする標準の確立に貢献し、パブリッシャーやAI企業が健全でダイナミックなコンテンツ経済に参加できるよう支援することです。
インターネットは常に進化してきましたが、今起きている進化は速く、影響も甚大です。しかし、適切なインフラストラクチャ、適切なインセンティブ、透明性へのコミットメントがあれば、エージェンティックインターネットはより持続可能で、より効率的で、すべての人にとってより良いものになると考えています。
方法論:
本レポートのデータは、Cloudflare RadarおよびCloudflare Investor Day 2026年度プレゼンテーションを基にしています。
Cloudflare Radarは、世界のインターネットトラフィック、攻撃、テクノロジートレンド、インサイトを集約したハブです。Cloudflareのグローバルネットワークから収集したデータを基に作られ、セキュリティ、パフォーマンス、使用状況の観点から、インターネットで何が起きているかをわかりやすく伝えています。
インターネットに関するCloudflare独自の理解は、100か国・330都市以上に広がる世界最大級のグローバルネットワークから集められた情報と、高速プライベートブラウジングに広く利用されるCloudflareの1.1.1.1パブリックDNSリゾルバーから集約し、匿名化したデータに基づいています。Webの20%以上がCloudflareのネットワークを経由しています。